カラっぽの僕に、君はうたう。―フォルマント・ブルー (富士見ミステリー文庫)

著/木ノ歌詠 イラスト/ミヤスリサ 富士見書房富士見ミステリー文庫


富士見ヤングミステリー大賞<佳作>受賞作。死を決定づけられた少年が拾った人間型楽器といっしょに最初で最後の音楽コンテストがんばっちゃおう小説。
多くの比喩が出てきますが、それが弱い。なかには心をつかむようなものもありますが、下手な鉄砲も数打ちゃ当たるです。これが物語へ入るのを阻害しています。もしもテレビを消すだけなのに「彼はブラウン管*1を休ませた」なんて表現があったらまわりくどいだけです。まわりくどい表現は思考を立ち止まらせます。結果、物語へ入るのを阻害します。
現に、物語の進行に集中してきて詩的表現が少なくなる後半は、展開もあいまってぐいぐい引きこんでいきます。あるいは主人公の一人称視点から離れるからか、露骨な萌え表現が少なくなるからか、安い悪役が引っこむからか。ともかく詩的表現を厳選して「時間を費やす」のようないい比喩によって物語をつむぐなら、すごかったでしょうね。ラストは編集側の意向でしょうか。まあ出版された物がすべてですが。
あとイラストの人はがんばってください。男を描くのもがんばってほしいですけど、p71は人としての整合性があやしくなってます。
あれ? えーとミステリー大賞? ……ちょっと読み直しますね。

*1:いまどきブラウン管かよとかいわない